Scene.7 さらなるステージへ。
高円寺文庫センター物語⑦
駅近くに移転して、そろそろ5周年を迎える時期になった。例によって、組合運動知識での最近の総括と今後の展望をしなければと「4丁目カフェ」でミーティング。
「ドリンクが来るまで、お喋りしていていいよ」
「そう言えば店長、こないだ黒木くんがテレビ局入社の挨拶に来よったばい」
「そっかぁ、凄かねぇ~バイトの一番出世になると」
「店長、通ってたスポーツクラブを辞めたんですって?」
「うん、新聞輸送のバイトも辞めてさ。急に筋肉落ちるのが嫌だから通っていたけど、一年は通ったし家の新築に休日を使うからくたびれてきた(笑)。
西村くん、入って半年になると思うんだけど慣れたかい?」
「お待たせしました。今日は、みなさん勢ぞろいでミーティングなんですね」
「はい、お喋りは終わり!」
「ワープロで作ったレジュメを配るから、見ながら聞いてな。
お陰様で5周年を迎えられますが、売上は右肩上がりで本店も喜んでおられます。バブルが弾けていつまで、好調を維持できるかわかりません。
ボクらとしては『お客さんが一週間来ないと、気になってしょうがない店』をスローガンに、小さくても大きな店づくりをこれからも目指しましょうね。
戦略的には、ブックフェアなどでお客さんを引きつける。次に、マスコミに取り上げて貰うことで『高円寺街歩きMAP』をもとに、高円寺外のお客さんを呼び寄せるってことね。
具体的にはブックフェア、りえ蔵から報告してくれるか」
「はい、じゃこの一年を振り返りますね。
『Hanako』『OZ Magazine』バックナンバーフェア。『マルコムX』『つげ義春』『ブラックパワー』『大正ロマン』『部落解放』『アンネ・フランク』フェアときて、いまは『インパクション』バックナンバーフェアと国書刊行会の品切れ希少本フェア。P-VINEレーベルのCDフェアが始まったばかりです。」
「硬軟取り混ぜて、切れ目なく継続していていいよね。引き続き、みんなでアイデアを出して頑張ろうぜ!
内山くん、5周年記念セールの準備は大丈夫ね?」
「まかしんしゃい。版元さんからのお客さんへのプレゼント品とアンケート、OKばい」
「イェイ♪ 初のテレビ取材もあったしな、これからだぜ!」
「店長、POPじゃなくて考えたのコレ」
「なに、オリジナル腰巻かい? 面白いけどさ、売れたらどうするの」
「一点ものだから、レジで回収するのよ」
「りえ蔵、岡本太郎には熱が入るね」
「だって『自分のなかに毒を持て』は、読んで欲しいし売りたいの」
さっそく、常連客のシャキがひっかかった! パンツスーツの90度前かがみでオリジナル腰巻=本の帯を読んでいる。
「これ、いいと思います。だって、本屋さんの売りたいって情熱が伝わってくるじゃないですか!」
シャキ対応はりえ蔵に任せて、さり気なく引いて考える。
安直な既成のPOPの掲示は、ボクらの無能をさらけ出しているとしか思えず多用しないようにしていた。なので、このオリジナル腰巻は高円寺に相応しいアイデアと思った!
この街に、既製品はダメなのよ。
この文庫、売りに売って補充が入らなくなった・・・品切れか!
「店長、青春出版社に電話してもいいですか?」
本屋はこれ! 売りたい熱意!
その本から「わたしをお好きに連れてって」というオーラで、お客さんを絡め取られるかどうか。
POP林の中に手を入れにくくなっているのを、店員は理解しているのかなって思うのが大型書店だよ。
「店長、やったぁ! 文庫の重版をしてくれるんですって!」
「イェイ、ハイタッチ! 電話が効いたじゃん、やっぱ現場からの声だろ」
それは、注文短冊が溜まっていたのかも知れない。問い合わせの電話がたまたま相次いだのかも知れない。それでも、青春出版社さんには重版の御礼電話をした。